キャロのクリスマス大作戦

肌が痛い位に寒い十二月の半ば。雪が街のあちらこちらを彩り始めていた。
そんなクリスマスが間近に迫ったある日のミッドチルダ。元々ここ、ミッドチルダには聖王教会の信仰があったことに加え、
なのはたち、地球出身者が多く集まるようになったために管理局を中心にクリスマスの文化が浸透しつつあった。
そのため、多少の認識の違いはあるが、クリスマスを家族や恋人、あるいは親しい友人達と過ごす者がミッドチルダにも多くいた。

  そのころ機動六課では、六課の女性陣たちがそれぞれ誰が誰にプレゼントをあげるだとか、
プレゼントの中身について相談したりと、話題はクリスマス一色に染まっていた。
なのははユーノにあげるプレゼントの他に、フェイトと一緒にヴィヴィオにあげるプレゼントを選んだりと忙しいながらも楽しそうに過ごしていた。
また、別の場所ではティアナが想い人であるヴァイスにプレゼントをあげるか否かで頭を悩ませ、同僚のアルトとルキノにせっつかれていた。

  そんな中、六課に迷える少女がもう一人いた。彼女の名はキャロ・ル・ルシエ。機動六課ライトニング分隊所属の最年少隊員だ。
キャロはクリスマスの風習が伝わった時に大切な人と祝う行事であると同時に、恋人やそれに近い存在に想いを打ち明ける日でもあると知ったのである。
そのため、日頃から一緒にいてほのかな想いを寄せている少年、エリオ・モンディアルにプレゼントをあげて、
告白とまでいかなくとも二人の関係を前進させようと考えていた。だが、エリオにプレゼントを贈ると決めたことまでは良かったのだが、
肝心のプレゼントの内容がまったく決まらないのだ。

エリオは普段からあまり欲がなく、物を欲しがらないためだ。そこでキャロはエリオに直接欲しい物を聞いてみることにした。
多少ストレート過ぎる感はあったが、キャロにそんな余裕はなかったのだ。
 機動六課隊舎の廊下をキャロが歩いていると、向かいからエリオが歩いてきたのでこれ幸いとキャロはエリオのもとに駆け寄った。
「ねえねえ、エリオ君」キャロはエリオとの歩幅を生めるために多少早歩きになり、息が切れるのも構わずにエリオに問いかける。
「どうしたの、キャロ、そんなに慌てて?」

エリオが向き直ると、キャロは息を整えてから本題を切り出した。
「ねえ、エリオ君って今欲しいものとかってある?」
「キャロ、どうしたの急に?」
キャロの突拍子のない質問にエリオは首を傾げる。
このキャロの計画が一番問題とするところはエリオにクリスマスのことがバレルことなのだが、
幸いにもエリオはこの手のことに疎いため疑われることすらしなかった。

「別にどうもしないけど、エリオ君ってどんなものに興味があるのかなあって気になったから」
「そうだなあ…僕が欲しいものって言ってもトレーニング関係のものになるけど、これは管理局からの支給品でなんとかなるからなあ…それ以外だと特にないかな」
エリオの答えにキャロは内心で肩を落とした。
「そう、わざわざ答えてくれてありがとう、エリオ君」
そう言うとキャロは表面で微笑み、内心は落ち込んだまま自分の部屋へと歩いていった。

 「あーあ、結局エリオ君が欲しい物は分からず仕舞いか…」
キャロが自室のベッドに身体を投げ出し天井を見上げていると、通信端末にコールサインが入った。
「はい、ライトニング4です」キャロが慌てて身だしなみを整えてマルチタスクを開く。

そこには見知った金髪の女性。エリオとキャロの共通の保護者、フェイトの姿が写っていた。
「ごめんね、キャロ。驚かせちゃった?別に仕事の用事じゃないんだけど、今どうしてるかなって思って。ひょっとして迷惑だった?」
フェイトは普段、執務官として次元世界のあらゆる事件に関わる多忙な生活を送っているため中々三人と親子の時間を取ることが難しい。
そのため少しでも暇を見つければこうして連絡をしてくるのだ。

「迷惑だなんてとんでもないです、私からフェイトさんに連絡しようかと思っていたくらいですから」

  これは本当だった。エリオのプレゼントの件で悩んでいたが、他のフォワードメンバーはまだそこまで付き合いが長いわけではないので、
他に相談出来るのがフェイトしかいなかったのである。そしてそのことに気づかないフェイトではなかった。
「キャロから私に連絡ってことは何か悩み事か何かかな?」
「えっ!?どうして分かったんですか!?」

自分のことを見透かされたキャロは困惑の声をあげる。
「ふふっ…洞察力と推察力は執務官の必須スキルだからね。
というのは冗談でこれでも私はエリオとキャロのお母さんなんだから、娘の考えることくらい分かるよ」
そういうフェイトの表情はとても慈愛に満ちたものだった。
「実は…エリオ君のことで相談がありまして…」
ここまでのいきさつを話すキャロを見てフェイトはその優しい表情を更に柔らかくしていった。

「そっか、キャロももうそういう年頃か」
フェイトは嬉しそうに噛みしめながら続ける。
「キャロはエリオに一番喜んでもらえるプレゼントを贈りたい。
だけどエリオが欲しがってるいものが何なのか分からない、こういうことだね?」
「フェイトさん、凄い……」
キャロはフェイトにどこまでも見透かされていることに驚きを隠せずにいた。

「そんなことないよ、キャロくらいの年頃になると女の子は皆一度はこういう風になるものだからね。私も今のキャロくらいの頃そうだったよ」
フェイトは懐かしさと甘酸っぱさを同居させたような表情で言い含めた。
「フェイトさんにもそんな時期があったんですか!?」
自分の悩みもなんのその。やはり誰かの恋愛事情が気になるのは女の子故か。

「私の場合、叶わなかったけどね。今はそれよりもエリオのことでしょ。キャロはちゃんと成功させなきゃね」
やはり自分の失恋話は娘とはいえ話したくないのか、フェイトはやんわりと軌道修正を図る。
「エリオの性格を考えたら気持ちが篭っていればなんでも喜ぶと思うよ」
「気持ちの篭った物…手作りとかですか?」
キャロは気持ちが篭ったもの=手作りと結論づけ、話を進める。

「そうだね、手編みのマフラーとかいいかもしれないけど材料はある?」
「材料ですか?今思いついたので何もないです…」
瞬間、キャロは自分のアイディアが駄目になってしまったと思い暗い顔をする。

「私が昔使った道具一式と作り方の本があるからそれをキャロにあげるよ」
思ってもいなかったフェイトの提案にキャロは一瞬で明るさを取り戻す。
「ありがとうございます、フェイトさん!!」
「ただし、私は作り方とかは教えてあげられないからそっちははやてにお願いするね。はやてならこういうことも得意だから」
「八神部隊長ですか?分かりました」

キャロが返事をするとフェイトはマルチタスクの向こうでゴソゴソと荷物の整理を始め、その傍らではやてと連絡を取っていた。
「キャロ、今からはやての部屋に行って大丈夫だって」
急な連絡にも関わらず大丈夫だったらしく、フェイトは満面の笑みをキャロに見せた。
「ありがとうございます、フェイトさん!!」
はやる気持ちを抑えて礼を言うキャロをフェイトが落ち着かせる。

「とりあえず荷物はこっちで送るからキャロはそのままはやての部屋に行っていいよ」
それを聞いたキャロはすぐに自室を飛び出し、はやてのもとへと向かって行った。

  「うちの子達は素直でいいけどあれくらいの年の子は捻くれてることのが多いからなあ…ねえ、お義兄ちゃん」
そういってフェイトは写真越しにクロノにでこピンを加えた。フェイトの初恋の相手は現在、海鳴に妻と子どもを預け、
クラウディアの艦長として多忙を極める身だ。
「せめて、あの子たちには上手くいってもらいたいなあ」
混じりっ気のない、心からの願いを唱えるフェイトであった。

キャロがはやての私室を訪れると、はやてが満面の笑みで出迎えてくれた。
「ようこそ、キャロ。はやて先生の編み物教室へ」
「よろしくお願いします、八神部隊長。でも本当にいいんですか、こんなことでお手を煩わせてしまって?」

キャロが遠慮がちに訊ねると、はやては笑顔を崩すことなく続けた。
「そないなこと気にせえへんでええよ。乙女の願いを叶えるのも部隊長の務めや!!あと今は仕事中やあらへんから『はやてさん』」でかまへんよ」
それを聞いてキャロはほっと息を吐き、笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、はやてさん!!」

  こうしてはやて指導のもと、不恰好ながら手編みのマフラーが完成した。
エリオをイメージした真っ赤な毛糸を編みこんだ、キャロの真摯な気持ちが篭った一品だ。
「よっしゃ、これであとは渡すだけやね」
「はい、ありがとうございます、はやてさん!」

二人は満面の笑みを浮かべ、キャロが飛び上がってハイタッチをする。マフラーが完成した溢れんばかりの喜びを全身で表現していた。
「エリオが喜んでくれるとええなあ」
「はい、はやてさん…ってええ、どうしてエリオ君にあげるって知ってるんですか!?」

秘密にしていた恋心があっさりばれてキャロが慌てふためく。
キャロがエリオのことを想っていることなど周囲の大人からすれば一目瞭然なのだが、それでも本人は驚きを禁じえなかった。
「なんでって…マフラーを編んでる間中、キャロからエリオを想う気持ちが溢れてきて、それでなあ…」

しかし、そこまで言うのは憚られたのか、はやてはお茶を濁したような答えでごまかした。
「とにかく頑張るんやで、キャロ!」
はやては親指を立ててキャロを励ますと、キャロはそれに強く頷いて答えて見せた。

そしてクリスマス当日。数日前から降りしきる雪はいくらか積もり外の世界を白く覆っていた。
流石にこの状態で外には呼び出せないため、キャロはエリオを隊舎のロビーに呼び出していた。
「どうしたのキャロ、僕に用事って?」エリオが真正面からキャロを見据える。
キャロはこれからプレゼントを渡す緊張と外から入り込む寒さから無言で体を震わせていた。

「大丈夫、キャロ?」
そんなキャロを気遣ってか、エリオがキャロの顔を覗き込む。
キャロは覚悟を決め、グッと握りこぶしを作ってからエリオを見つめ返した。
「あのね、エリオ君。私、エリオ君に渡したいものがあるの」
そういってキャロは真っ赤なマフラーを差し出した。

「最近寒くなってきたからこれで暖まってもらおうと思って作ったの。どうかな?エリオ君」
「ありがとう、キャロ。早速巻いてみていい?」
エリオはマフラーを両手で広げてみせた。

「どうぞエリオ君」
キャロの了承をとり、エリオは早速マフラーを自身の首に巻いてみる。しかし巻き終わったあとエリオは違和感を覚えた。
その違和感を拭うためにエリオは何度もマフラーを巻きなおすが、それがなくなることはなかった。そこでエリオは思い切ってキャロに聞いてみた。
「ねえキャロ、このマフラー長さが余ってるよ?」

そうキャロが渡したマフラーは普通のものよりいくらか長いものになっていた。
長すぎて使えないというほどではないが、几帳面なエリオには少し気になるところだった。
マフラーの長さを気にするエリオにキャロは躊躇しながら近づいていった。こころなしかキャロの表情には朱が走っているように見えた。

「あのね、エリオ君。これはこうすると調度良いんだよ」
キャロはマフラーの余った部分を自分の首に巻いてエリオと密着した。
「ほらね、こうすると凄く暖かいでしょ?」
「キャ、キャロ!?何やってるのさ!?」

首に巻いているマフラーと同じくらい顔を赤くするエリオと嬉しそうなキャロであった。
窓の外では相変わらず雪が降り続いていた。
「見て、エリオ君あんなに雪が降ってるよ」
「そ、そうだね、キャロ。綺麗だね」
微笑むキャロと顔を真っ赤にしたままのエリオ。外の雪は二人のクリスマスと少女の想いを祝福するようにしんしんと降り注いでいた。


おまけ

 一方、こちらは機動六課隊舎ロビーの外れ、エリオとキャロがいる場所からは死角になる位置である。
「なんで私たちはちびっこコンビに先を越されているのかしら?」
諦め半分、悔しさ半分といった様子でティアナがぼやく。
「なんででしょうね?なんか泣きたくなってきました」
それに続くようにアルト・ルキノ・シャーリーの給湯室トリオが落ち込んでいた。
その四人の姿にはどこか哀愁ただようものがあったという。
「大丈夫だよ、ティア。ティアには私がいるじゃない。私はティア一筋だからね!!」

どこから現れたのかスバルがティアナに抱きつこうとする。
「この場面で告白されても嬉しくないんじゃー!てか私はノーマルだーー!!」
そう言うとティアナは腰の入った素晴らしい右ストレートでスバルをダストシュートへと吹き飛ばしていった。
 勝者と敗者の命運がはっきり別れたクリスマスとなった。


あとがき

  卒論が終わったと思ったらクリスマスかよ!!てなわけでエリキャロでクリスマスネタをやってみました。
強引に押しまくるキャロとそれに翻弄されるエリオを書いてみたのですがどうでしょうか?うちのキャロは存外肉食系(笑)なようで。
好きな相手(エリオ)にはガンガンアタックします。でもそれ以外のことは目に入らないのできっとティアナたちに目撃されたことも気づいていないと思います。

そして後でその事でネタにされて慌てるのでしょうね、主にエリオが。
キャロは既成事実を作れた&周囲にアピールが出来たと内心で喜んでいることでしょう。
あれキャロってこん子だったっけ?もっと純真で奥手だったはずなんだけど…きっと好きな子のためなら何でも出来る強い子なんですよ、キャロは。
決して某ラジオの影響を受けたわけではありませんのであしからず。では今回はこの辺で、次回は多分お正月ネタになるかと思います。

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