リトルバスターズSS

雷の日

ドザアアァァーー
佳奈多が部屋の窓から外を見やると、バケツをひっくり返したような雨が降りしきり、地面を親の仇と言わんばかりに叩きつけていた。
遠くでは鉛色の雲の中で稲光が胎動したかと思うとジグザグに空気を切り裂いている。
どうやら今日は雷様までご立腹らしい。

「はあ……」
佳奈多は心底うんざりしたようにため息を吐き出した。
無理もない。こんな天気が何日も続き、太陽など顔すら出していないのだから。
しかも今回は雷のおまけつき。自然気も滅入るというものだ。

こんな気分では本も読めないと、佳奈多が珍しく寮の部屋でぼーっとしていると部屋の片隅で丸くなっている何かを発見した。
「わふー…」
丸くなっている「それ」は頭から毛布を被り独特の言葉を発しながら震えていた。

「クドリャフカ……?」
佳奈多は半信半疑でルームメイトの名を呼ぶ。
するとクドは亀のように毛布から頭だけ出した。その目には心なしか涙が浮かんで見える。
今の状況でクドがこうなる原因は一つしかない。
それを確かめるべく佳奈多は口を開いた。

「あなた、まさか雷が恐いの?」
佳奈多の問いにクドリャフカはゆっくりと頷いた。
「はい、恥ずかしながら…」
一旦区切ってから再び続ける。
「大きい音がするとどうしてもびっくりしてしまうのです。特に雷はいきなりなので…」

目を伏せ、申し訳なさそうに答えるクドリャフカ。彼女のトレードマークとも言える元気さはすっかり成りを潜めていた。
「恐がる気持ちは分かるけどなんとかならないの?耳栓するとか、目を閉じるとか…」
「そういったことは一通り試してみたのですが…」
佳奈多が提示した解決案の類はどれも効果が望めなかったらしい。

こうなるといよいよ八方塞だ。佳奈多としてもルームメイトが暗い顔をしているのは気分のいいものではないので、早急に解決を図りたかった。
しかし、小さい頃からお山の家で半ば支配者のような教育を受けてきた佳奈多にとってこういった対処は専門外もいいところだった。
佳奈多は腕を組んで思案する。そうなると取れる手段も限られてくる。
しばらく考えて佳奈多は一つの提案をする。

「なら今日は一緒に寝ましょうか?」
「佳奈多さんっ!?」
佳奈多の予想外の発言に目を丸くするクドリャフカ。
「あら、たまにはいいじゃない。それともクドリャフカはずっとそこで丸くなってる?」
言葉こそいじわるに聞こえるが、その表情はどこか柔らかいものだった。

「あら、意外と狭くないのね」
クドと共にベッドに潜り込んだ佳奈多はそんな言葉を漏らす。
普通のベッドに人が二人入れば多少窮屈になるはずだからである。

「佳奈多さん、それは私が小さいということですか?」
佳奈多の正面にいたクドが拗ねるように口を開く。
ぷんぷんという擬音がつきそうな様子で本人は怒っているのだが、傍目にはそうないどころか、却ってクドの可愛さを引き立てるだけである。

「本当にクドリャフカは可愛いわね」
そう言って佳奈多はクドに抱きつく。その様子はお気に入りのぬいぐるみを愛でているようにも見えた。
「わふー!!」
クドも言葉では驚いているが、何処か楽しげだった。

「かなたしゃ〜ん…」
クドがベッドの中で寝言を零す。
あの後クドが眠たそうにしていたので開放すると、数分もしない内に夢の世界へと旅立っていった。
その様子はクドの容姿も相まって彼女を一段と幼く見せていた。

「まったくあなたって人は…」
注意めいた事を言いながらも優しく微笑む佳奈多。その胸には何か暖かいものが過ぎっていた。


翌朝、それまでの天候が嘘のように晴れ渡った。外ですずめが踊り、数日ぶりの陽光がカーテン越しに降り注いでいた。
そんな時、佳奈多とクドの部屋の前に一人の人物が訪れる。あーちゃん先輩こと女子寮長である。
「二木さーん、今日の仕事のことで相談があるんだけど」
寮内のため一応余所行きの対応をする寮長。ノックをしてドア越しに用件を言うが反応はない。

「二木さ〜ん」
寮長は仕方なく、部屋のドアを開け中の様子を覗う。
すると、中には仲睦まじく寄り添って眠る佳奈多とクドの姿があった。
「まったくしょうがないな〜」
寮長は部屋の様子を確認すると、そのままドアを閉め元来た戻っていった。

その道すがら、携帯を開くとアドレスを開き通話ボタンを押す。
「もしもし直枝くん?今日、寮長室に来れないかな?」
それは数日振りの太陽に照らし出された、何処までも優しい朝の出来事だった。


あとがき

流石夏休み、執筆が捗るぜ(え
世間はもう二学期だって?そんなの関係(ry
今回は佳奈多ルート後のif話
自分の感情に素直になって優しくなった佳奈多ならこういった展開もありかと。
佳奈多はクド限定で元から甘いという説もありますが、そこは寛大な気持ちで受け流してください。

個人的には場面転換が不自然だったのでもう少し上手く運びたかったですが…

では今回はこの辺で〜


 

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