最初にいくつか前提を書いておきます
・本作の主人公はアニメ版の最終回に出てきた律の弟(田井中聡)です
・聡と梓は付き合っています
・高校が別々なのは桜高が女子校だからです
・聡が通っているのは共学の平均的な公立高校です

これらの前提を理解した上でお楽しみください。



けいおん!SS 文化祭突撃訪問


  今日は田井中聡が通う高校の文化祭であった。彼、田井中聡もウェイターとしてクラスない狭しと動き回りオーダー取りやメニューを運んだりと大忙しだった。
そんな聡に一人の女子生徒が声をかけた。
「すみません、注文お願いしたいんですけど」
「はい、ただいま」
聡が声のする方へ向かうと見知った顔、聡の彼女である中野梓が席に座っていた。
自分を呼び止めた梓を見て聡は動転した。何故なら今日、梓は軽音部の活動があるはず、というか聡が文化祭に誘ったが部活があるから行けないと断れたのだ。

 「何で梓さんがここに、今日は部活だって言ってたじゃないですか」
聡が嬉しさと戸惑いを混ぜ合わせた顔で梓に聞く。
「本当は今日部活だったけど、聡君が頑張ってる姿を見たくなっちゃって休んできちゃった…迷惑だったかな?」
両手を合わせて上目遣いで聡を仰ぎ見る。

年上の彼女の年上らしくない仕草に一瞬顔を赤くするが、聡はすぐに接客モードも戻っていった。
「そ、そ、そ、そんなことないです…それよりご注文はいかがいたしましょう?」
「そ、それじゃあレモンティーとチーズケーキをお願いできます?」
「レモンティーとチーズケーキがお一つですね。かしこまりました」
聡は恭しく礼をするとオーダーのメモを持って厨房へ戻っていった。

聡が戻ってくると厨房は蜂の巣を突いたような大騒ぎで、聡はクラスメイト達に囲まれてしまった。
「おい、今の可愛い人だれだよ!?」
「田井中君、あの人と付き合ってるの!?」
「やーん、私田井中君ちょっと狙ってたのにショックー!!」
どうやらさっきの会話を聞かれていたらしい。方々から無責任な声が飛び交う中どさくさに紛れてプチ告白をする者まで現れる始末である。

そんな騒ぎを他所に厨房の奥から落ち着き払った声が聞こえてきた。
「皆とりあえず落ち着いてください」
「そうですよ、今は仕事中なんですから彼を問い詰めるなら文化祭が終わってからでもいいでしょう」
二つの声が聞こえると厨房の喧騒はぴたりと止んだ。その二人がそれだけのカリスマの持ち主だからだ。

「田井中に彼女がいるという事実は僕をもってしてもほぼイキかけましたけどね。でも今は目の前の文化祭が優先でしょう」
「そうです、あの女性は田井中のガールフレンドである前に僕達のお客さんですよ、ちゃんと接客しないと。つい先日彼女と別れた身としては羨ましいですけどね。」

聡の友人であり、喫茶店の発案者兼リーダーである鈴木と金田…もとい新庄が立っていた。
彼等に発言でその場は収まりクラスメイトたちも各々の仕事に戻っていく。
「田井中君、オーダー上がったからお客さんの所に持っていって」
聡もクラスメイトの指示を受け仕事へと戻っていった。

「おまたせしました」
聡は梓が座るテーブルにケーキと紅茶を並べるといそいそと立ち去った。
「あ…聡君・・・」
梓は何かを伝えようとしたが、それさえも叶わない速さであった。
「聡君、やっぱり仕事中じゃお話なんて出来ないよね…」
梓が寂しくケーキを食べているとポケットの携帯が震えだした。
梓が携帯を開くとディスプレイに新着メール1件と表示されていた。開いてみるとメールは聡からのもので、それを読んだ梓は頬を綻ばせた。

  「あと30分したら休憩に入れるから一緒に文化祭を見て回ろう。そっけなくしてごめんねー聡ー」

「聡君……」
梓は暖かいものに包まれるような気持ちになり、ケーキと紅茶が部室で食べる時よりも美味しく感じられた。


「梓さーん!!」梓が中庭で聡を待っていると、ブンブンという音が聞こえそうなくらいに腕を振って聡が現れる。
その様子が少しおかしかったのか、あまり人の事は言えないがまだまだ子どもっぽいなと梓は内心微笑ましく思いながら聡を出迎えた。

「梓さん、待ちました?」
息切れを起こしそうな勢いでやってきた聡が確認してくる。
「ううん、大丈夫私もさっき来たとこだから」
(あれ、今のってちょっとデートっぽくない?)
そんなことを意識したせいか梓は顔が赤くなっていた。
「よかったー梓さんを待たせることにならなくて。時間ももったいないし何処か移動しましょうよ」
梓の心境を他所に、言うが早いか聡は梓の手を取って手近な露天を目指していった。

その後二人は金魚すくいに奮戦したり、明らかに仕込みの恋愛占いで喜び合ったりと二人の文化祭を堪能した。

いくらか露天を回り時間も経った頃、梓が一つの教室を指差した。
「ねえ聡君、あそこに寄ってかない?」
聡が目線をやると、そこには黒を基調にした看板に赤いペンキで恐怖の館と書かれていた。文化祭の定番、お化け屋敷である。
「梓さんこういうの好きなんですか?」
「怖いけど…好き…」
怖くないお化け屋敷などお化け屋敷とは呼べないが、梓の言わんとすることを理解して手を差し出す。
「じゃあ一緒に入りましょうか、梓さん」
「うん」
梓が差し出された聡の手を強く握り締めると二人は恐怖の館へ足を踏み入れた。

「いやー!聡君、これ怖い、いやー!!」
梓は作り物の幽霊たちに全力で怖がり、ある意味お化け屋敷を満喫していた。しかし聡はそうはいかなかった。
「大丈夫ですよ、梓さん」(せ、せ、背中に何か柔らかいものがーー!!)
聡にとっては天国と地獄が両天秤で揺れまくる時間となった。

二人が外に出ると西日が傾きかけており、文化祭の終わりが近づいていた。
外を見ると外部からの参加者は皆校門に向けて歩き出していた。聡もその一団に混ざり、梓を校門まで送っていった。

「僕はこれから片付けとかやることがあるから今日はこれで」
「うん、楽しかったよ聡君」
「でも急に来たからびっくりしたよ。連絡くらいしてもよかったのに」
今日の突撃訪問を思い出したのか、聡は頬をポリポリと書いた。
「だって聡君を驚かせたかったから」
梓は恥ずかしそうに言うと聡の方に振り向いた。

「梓さん…」
「聡君…」
そこだけ時間が切り取られたかのように静止して二人で見詰め合う。そして目を閉じてゆっくりと近づくと唇を重ね合わせた。
ただ重ねるだけの子どものキスだが今の二人にはこれで十分だった。二人の様子を沈む太陽が優しく照らし出していた。


数日後 田井中家
「なあなあ、聡、面白い写真があるんだけど見るか?」
「どうせ姉ちゃんが言う面白い写真なんて大したことないんだ…ろ…?」
振り向いて写真を見た瞬間聡は石になった。

律が手に持っている写真、そこには文化祭の終わり際、校門前でキスをする聡と梓の姿がバッチリと写っていた。
「ね、ね、ね、姉ちゃんなんでそれを!!」
「いやー弟が労働に勤しむ姿を見に行ってやろうと思ったらこんな姿を見せられるとはねえ」
慌てまくる聡をからかい律は心底楽しそうにしている。
そして律は意地の悪い笑顔で聡に迫った。

「ところで聡、私は今この写真を軽音部の後輩に見せるべきか、身内の恥はこの場で捨てるべきか迷っているのだがどうすればいいと思う?」
「…ネガはいくらだ?」

樋口一葉3枚と引き換えに梓の平穏を守った聡であった。
ちなみに律が受け取ったお金は本人の知らないうちに財布に戻されていたが、そのことに気づかなかった聡は月が変わるまで貧しい思いをして過ごしたという。

あとがき

今回は珍しくけいおん!のSSを書いてみました。しかもノーマルCPで主人公は律の弟聡。一体どこに需要があるんだか…
けいおん!の最終回に出てきた聡を見て電撃が走りそのまま勢いで書き上げた今作ですが、公開する機会がなく今までお蔵入りしてました。
しかし四月からけいおん!!二期が始まるのでこれはいい機会だと私の中で判断し公開しました。

しかし百合が基本のけいおん!世界でノーマルCPやショタキャラがどれだけ需要があることやら…皆様の感想お待ちしております。

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