エリオとキャロのドキドキ納涼肝試し


   エリオとキャロがアルザスに来て既に何回か季節が巡った。ミッドチルダのような都会にはない自然の変化、春の新緑に夏の暑さ、秋の優しさに冬の厳しさ。
そして再び訪れる春。幼少期を研究施設と機動六課で過ごしたエリオにとってアルザスの環境は中々に辛いものがあった。

「暑いね、キャロ」
「うん……」
エリオの呼びかけをキャロは力なく肯定する。自然育ちのキャロをもってしても耐えられないほどに今年の暑さは厳しいのだ。
太陽はギラギラと熱線を送り出して土は焼けるような臭いを発し、鳥や虫たちも木陰に避難し太陽の下に現れようとしなかった。

「エリオ君、そっちの調査は終わった?」
「あと少しってところかな。キャロの方は?」
「私もほとんど終わりだよ」

キャロが手元のファイルに目を通す。それを見てエリオもやる気を出した。
「よし、じゃあ残り少しだから頑張って片付けよう!弱音ばっかり言ってられないし」
「そうだね、頑張ろうねエリオ君」
しかし暑かろうが寒かろうが任務がなくなるわけではない。二人は互いに励ましあい残りの任務へ取り込んだ。

 「ただいま戻りました」
エリオが帰還の報告をしてキャロが調査報告書を提出する。一緒に仕事をこなすうちにいつの間にか出来ていた役割分担をこなす。
二人が報告を済ませロビーを歩いていると見知った人物とすれ違った。
「なに、あんたたちも今あがり?」
その人物はポニーテールを揺らし、視線を少し下げる。
昔は屈まなければエリオとキャロに視線を合わせることが出来なかったがそうしないで済むことが時間の流れを物語っていた。

「はい、ミラさんも今終わったところですか?」
「ええ、そうよ」
ミラはエリオとキャロが自然保護隊に配属された頃からの先輩で世話係や指導者のようなことをしていた。それ故二人の変化にもすぐに気づいた。

 「あんたたち辛そうだけど何かあったの?」
ミラが尋ねると二人は顔を見合わせる。
「いえ、そういったわけではないんですが…」
歯切れの悪そうに答えるキャロをエリオが引き継いだ。

「ここ数日暑い日が続いたのでちょっと疲れが溜まってるんです」
「確かにここ数日は私たちの間でも根をあげる隊員が出てきてるし…」
エリオがそう告げるとミラは顎に手をついて何事か呟いた。そうやって暫く思案するうちにミラはアイディアが浮かんだらしく一つの提案をした。
「ならいっその事皆で羽を伸ばさない?」
「「「羽を…伸ばす…?」」

突然のミラの提案にエリオとキャロはオウム返しをするしかなかった。
「こんな状態で任務を続けても効率悪くするか失敗するのがオチなんだし、それなら心身ともにリフレッシュして英気を養いましょう」
ミラの考えにも一家言あるためエリオは素直に賛同した。
「それは良いですね、でもいつやるんですか?」
「今日は流石に無理だから今週末かな。詳しく決まったらまた連絡するわ」
「分かりました」

  エリオとキャロはメモ帳に会話の内容をさっと書くとその場を立ち去ろうとした。しかしミラがキャロだけ呼び止めた。
「ところでキャロにちょっとお話があるんだけど、いい?」
「はい」
突然呼び止められたキャロは何事かと振り返る。
「エリオは先に戻っていいわよ」

そう言ってエリオが立ち去るのを確認するとミラはキャロの両肩に手を置いてニンマリ笑った。
「ところであんたらどれくらい進展したの?」
「え、え、え、進展って!?」
ミラは自分の発言に慌てるキャロを見て獲物を見つけた獣をのようになった。そして意地悪な笑みを浮かべて言葉を続けた。

「進展って言ったら一つしかないじゃない」
ミラはさっきまでエリオがいた場所に視線を送る。その意味を理解したキャロは観念して正直に告白する。
「まだ何も言えてないというかきっかけがないと言いますか…」
か細い声で伝えるキャロを見てミラは今度の納涼企画に一つのイベントを追加することを決定した。
「分かったそれじゃあ私に任せなさい」
ミラはドンと自分の胸を叩いてみせた。自信満々に何かを企むミラの姿に一抹の不安を覚えるキャロであった。

  そして納涼会当日。陽は完全に沈み、周りでは虫や鳥達が思い思いに自己主張をしている。すっかり夜の世界が訪れていた。
そんな中でエリオとキャロは近くの森の入り口で並んでいた。ミラに呼び出されてここにいる二人だが肝心のミラがいないのだ。
「ミラさん遅いね…」
待ちくたびれたのかキャロが呟きエリオが周囲を見渡すと、なんと森の中からミラが現れた。

 「ごめんごめん待たせたわね」
両手にペンケースやバッグを持って出てきたくると二人にスタンプカードを持たせた。
「ミラさんこれは何ですか?」
いきなり渡された厚紙に戸惑う二人に対しミラは待ってましたとばかりに解説を始めた。

  「今から二人には肝試しをしてもらいます」
「「 肝試し!?」」
バッチリと同じタイミングではもるエリオとキャロ。それを満足気に眺めるとミラは解説を続けた。
「この森の中に私とタントでコースを作ったのでそこを周って来ること」
目の前の森を指差しミラが解説する。今度は二人が持っている厚紙に視線を送り続ける。
「その途中にチェックポイントがあるからそのスタンプ用紙に押してくること。但し!肝試しだから当然恐い仕掛けもあるから気をつけてね」

「ひっ!!」
ミラの「恐い仕掛け」という言葉に反応し、キャロがその場で身をすくめてしまった。キャロを安心させるためかミラは笑いながら肩を叩く。
「大丈夫、大丈夫。恐い仕掛けなんて言っても一応安全だし作り物なんだから」
発起人にあるまじき発言をしながら更にキャロにだけ聞こえるよう耳打ちした。
「それにこれはあんたのためでもあるんだから。エリオにうんと甘えちゃいなさい」
ミラの真意を理解するとキャロは途端に顔を赤くした。
「大丈夫、キャロ?」
「うん大丈夫だよ、エリオ君。早く出発しようよ」
エリオはキャロの態度に疑問を持ったが、ここで立ち止まっていてもしかたないのでキャロに促される形で肝試しに向かうことになった。

 二人が足を踏み入れたのは四方を木々で囲まれた天然の迷路だった。
道すがら順路を示す看板があるとはいえ天然の森はそれだけで存在感と恐怖を誇示していた。

「エリオ君、恐い…」
木々が風でざわめく音と動物達の鳴き声が闇夜に吸い込まれていく。キャロはすっかりここの雰囲気に呑まれていた。
「僕がついてるから大丈夫だよ、キャロ」
エリオが気遣いながら先頭を行き、地面に露出した石や木の枝に注意を払いながら進んでいく。

「きゃっ!!」
想像よりも危なっかしい道にキャロは躓いてしまう。
「うわっ!」
しかし前方を歩いていたエリオにぶつかったおかげで転ばずには済んだ。
「だ、大丈夫?」
「あはは…ごめんね、エリオ君」
しかし恥ずかしいのかキャロは照れ隠しに笑い、エリオもそれに同調した。

 そうやって歩いているうちに森の開けた部分が見えてきた。第一のチェックポイントだ。
「エリオ君、あれ何?」
キャロが指差す先、即席の台の近くに人影が見えた。
それは成人男性と思しき背丈で風に合わせてブラブラと揺れていた。場所が場所だけに嫌な想像が二人によぎる。
「ま、まさかね…」
「そうだよ、そんなことあるわけないよ…」

頭でいくら否定しようと二人とも表情は引きつったままである。
「僕が先に見てくる」
エリオが恐る恐るといった様子で人影に近づく。
すると月明かりに照らされてそれがはっきりと映し出された。
人影の正体は木の枝をくみ上げただけの粗末な人形であった。
大小様々な木の枝が力なく風に流されていた。

「キャロ、これはただの人形だよ」
エリオが戻ってきて報告すると、キャロはようやく人形を視認した。
「本当だ、暗いからよく見えなかったんだね」
幽霊の正体見たり、枯れ尾花。問題の物が霊的でないと分かると、キャロはさっきまでの恐がりようが嘘のように安心してみせた。
「さ、次へ行こうか」
エリオの手にはスタンプの捺印されたスタンプカードが握られていた。

 二人が更に歩みを進め森の深くに入ると第二のチェックポイントがあった。
フワッ…そこでは丸い物体が発光しながら飛び回っていた。
「きゃっ!!」
キャロは光る物体に怯えてエリオに抱きついた。
「うわっ、キャロ!?」
エリオはいきなりキャロが抱きついたことに驚くきながらも何かに勘付き、球体の正体を見破った。
「キャロ、これ魔法で飛ばしてるだけみたいでよ」
「えっ…?」

キャロも落ち着いて感覚を研ぎ澄ませると確かに魔力を感知出来た。
「これってつまり…」
「ミラさんたちの仕掛けだろうね…」
仕掛けの正体を確認した所で二人は改めて自分達の状態を省みて慌てふためいてしまった。
「ごめんね、エリオ君」
「気にしなくていいよ」

エリオがそう微笑んで歩き出そうとするとキャロが袖をぎゅっと掴んできた。
「エリオ君、怖いから手を繋いでもいい?」
か細い手で力強く、精一杯の勇気を振り絞ったキャロの表情はこれ以上ないくらいに赤く染まっていた。

「うん」
エリオはそれに答え、キャロの手を自身の手で包み込む。
「ありがとう、エリオ君…」
キャロはそれをそっと握り返した。

 二人で手を繋ぎながら森を歩いていく。両足に適度な疲労感を覚え始め、そろそろゴールが近いことを示していた。
「エリオ君、あれもスタンプ台じゃないかな?」
キャロが指差す先に物陰が見えた。

「また何か仕掛けがあるのかな?」
「多分…そうだろうね」
二人の間に緊張が走る。さっきまでのパターンから言ってチェックポイントの周辺に怖がらせる仕掛けがあるのは間違いない。
「僕が先に行くね」
そう言うとエリオが三度先頭を行った。

  邪魔な木の枝を払いのけてチェックポイントまで進んでいく。
大木の側に台がポツンと置かれていた。エリオがキョロキョロと周囲を警戒するが不審なものは察知出来なかった。
「あれ、今回は何もないんだ」
最後のスタンプを押して一息つく。

「良かった、今回は何もないみたいだね」
後からついてきたキャロも仕掛けがないことに安堵した。
トントン…すると何かがキャロの肩を静かに叩いた。
「あれ、エリオ君いつの間にこっちに来た…の…?」
キャロが振り返ると、そこにはエリオではなく大人の女性と思われる人物が宙に浮いていた。

「え……」
キャロは思わずその場で固まり自分の頬をつねる。痛い、これは夢ではないようだ。それを見て件の女性は口元を広げてニヤリと笑った。
「きゃあああ!!」
キャロが思わず大声を上げて腰を抜かした。
「キャロ!!」
エリオがそれに反応し駆けつけると同じように驚いた。すると二人の反応に満足したのか女性は不敵な笑みを浮かべたまま闇夜へと溶けていった。

 「最後の仕掛けは凄かったね」
苦笑いを浮かべながらキャロが立ち上がろうとするも身体に力が入らない。

「あれ…」
戸惑いながらも何度も立ち上がろうとするがそれでもキャロは立てない。
「どうしたの、キャロ?」
エリオが不審がって質問するとキャロは泣きそうな顔で答えた。
「さっきので腰が抜けちゃったみたい……」
「どうしよう…」

エリオはどうしたものかと思考を巡らせ、一つの結論にたどり着き、キャロの前で腰を屈めた。
その意味を理解したキャロは首を横に振って抵抗する。
「そんな、悪いよエリオ君」
「でもこうしないと帰るのが遅くなっちゃうよ。皆にも心配かけちゃうし」
こうまで言われては仕方がない。キャロは迷った末に覚悟を決め、エリオに身体を預けた。

 肝試しの帰り道、二人とも羞恥心でギリギリの状態になりながらも帰路を目指す。
エリオの背中でキャロが恥ずかしそうに顔を埋める。出会った頃より大分逞しくなった背中に安心感を覚えたのであった。
だがそれ以上にエリオも動揺していた。
キャロの体温や鼓動、最近少し女性らしくなった身体が五感を通して感じられ、しかもさっきからキャロが顔を埋めているために密着度も最初より上昇していた。

 「キャロ、大丈夫だった?」
「もう大丈夫だよ。ごめんねエリオ君」
エリオが場を持たせるために会話を試みるが、帰ってきた謝罪の言葉にもう少し気の利いたことを言えないものかとエリオは内心で後悔した。
「キャロが謝ることないよ、僕から言い出したことなんだし」
「ねえ、エリオ君…」負ぶさっている腕の力を込めてキャロが尋ねる。
「もう少しこのままでいい?」
「うん、いいよ」
歩いているうちにずれてしまったキャロの身体をおぶい直してエリオが答える。
残暑はまだまだ続いているが、少しだけ涼しく柔らかい空気が流れ二人の間を流れていった。

 「よっ、ご両人!!」
帰還した二人を最初に待ち受けていたのはミラの冷やかしだった。
肝試しが終わると通常の納涼大会になり、何処で知識を仕入れてきたのか地球式の納涼大会になり、隊員達が方々で花火や氷菓子を楽しむ姿が見られた。
そしてエリオとキャロは心なしか二人の距離が縮んでいるように見え、ミラは当初の自分の目論見が成功したことと少女の願いが少しだけ叶ったことを喜んだ。



おまけ



 「ところでミラさん、最後のあの仕掛けはどうやったんですか?」
キャロがカキ氷を持ったままミラに尋ねる。
「ふぁいふぉ?(最後?)」
ミラはりんご飴を齧りながら怪訝な顔を浮かべてみせた。
「ほら、最終チェックポイントの宙に浮かびながら消えていった女性ですよ。リアルで凄い怖かったですよ。」

その瞬間ミラの顔が引きつった。
「ちょっと待って、私たちは第二ポイントまでしか仕掛けは用意してないわよ」
「えっ…?」
その時確かにミラとキャロの間に流れる空気が凍る音がした。
「じゃああの時私とエリオ君が見た女性って…」
納涼大会最後の秘密はキャロとミラの二人だけが知る秘密となった。

後書き


   もうこの二人は付き合っちゃえばいいと思うよ!!
だけど付き合わない、それがエリキャロ!!
ノッケから飛ばしてすみません。エリオとキャロって本当に書いていて楽しいと言いますか、動かしがいがあるのでかなり自由にやらせて頂いております。
今回もエリオとキャロでニヤニヤして頂ければ私も本望です。いつか公式でくっ付かないかな(願望)

 

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