ライトニング分隊の夏休み

  夏。照りつける太陽が心地よく降り注ぐこの季節は多くの人々が休みを取るため、帰省や行楽の代名詞とも呼べる時期である。
それは時空管理局においても例外ではなく、日頃任務に没頭している局員もこの時は家族サービスや骨休みに充足していた。
だが組織の都合上全員が一気に抜けるわけにはいかず、交代制による休みとなる。
機動六課では分隊ごとの休暇かとなったが、家族や友人で組織されていたため寧ろ好都合であった。

そんなわけで機動六課のライトニング分隊、フェイト・T・ハラオウン、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ親子と
同分隊のシグナムは海に遊びに行くことになった。

 「でも本当に良かったんですか、シグナム」
休日のハイウェイを通称フェイトカーで走りながらフェイトは助手席のシグナムに問いかける。
「構わんさ、我等は皆がバラバラの所属だから休暇が合うほうが珍しいからな」
切れ長の目を細めたままシグナムは答える。

「それでも趣味を楽しんだり自分の時間を使うくらいは出来るでしょう?」
するとシグナムは後部座席に意識を向けた。
「何、たまには弟子と交流を深めるのも良い師匠の条件かと思ってな」
件の弟子、エリオはめまぐるしく変わる外の景色に目を輝かせ、妹のような少女、キャロと車での旅を楽しんでいた。

「見て、キャロ、建物がどんどん小さくなっていってるよ」
「本当だ、それに海も近くなってるよ」
そうやって後部座席ではしゃぐ二人は年相応の子どもにしか見えず、それだけでも今日の旅行は成功したと思うフェイトとシグナムであった。
四人を乗せて車は更に加速する。 目指す海はもうすぐだ。

「んん〜やっと着いたね」
車を駐車場に停めるとフェイトは大きく伸びをする。
それまでの運転の疲れと入れ替わるように海の新鮮な空気がフェイトの体に満たされていく。
「ずっと運転しっ放しで疲れたろう?帰りは私が運転するからな」
シグナムはフェイトを労いながら車を降りた。エリオとキャロの二人も既に車を降りて海に向かって走り出していた。

「ちょっと待ちなさい二人とも!」
それをフェイトが声で制止するとエリオとキャロはピタリと立ち止まる。
「なんですか、フェイトさん」
「二人とも準備体操はした?それにその格好じゃ服が濡れちゃうよ」
よく見ると二人は出発した時の服装だった。

「怒られちゃったね、エリオ君」
初めての海が余程楽しみなのだろう。そう言いながらもキャロの顔はとても楽しそうなものだった。
「それじゃあ私は着替えちゃうね」
そう言ってキャロは自身の服に手をかけて脱ぎ捨てた。
「うわあ!!キャロ、何やって…」
あまりに咄嗟の出来事にエリオは視線を逸らすことも叶わなかったが、目の前に広がった光景はエリオが予想していたものではなかった。

キャロが服を脱ぐと、ピンクのビキニタイプの水着が姿を現わした。
「待ちきれなくて水着も一緒に着てきちゃった」
「嬉しいのは分かるけど紛らわしい事はしないでね…」
海鳴での出張の事を思い出したのか、エリオは泳ぐ前からドッと疲れを覚えたのであった。

「ねえねえエリオ君」
エリオが先陣を切って浜辺に向かおうとすると再びキャロに呼び止められた。
今度は何だろうと?とエリオが振り返ると上下ともに水着に着替えたキャロが立っていた。
「この水着、変じゃないかな?」本人は恥ずかしいのか身体を動かし、もじもじとしていた。
しかし透き通るような白い肌と淡いピンクの水着がコントラストになりキャロの可愛らしさを十分に引き出されていた。
エリオはキャロの顔を見て迷わず笑みを浮かべてその手を取った。
「凄く似合ってるよキャロ。時間がもったいないから早く一緒に行こうよ」
エリオの言葉を聞いてキャロも不安が晴れたのか笑顔を浮かべた。
「うん、ありがとう、エリオ君!!」

 ギラギラと照りつける太陽の下、エリオとキャロの二人は海水で足を冷やしていた。
二人とも海は初めてのため砂浜に何の注意をなしの踏み込んでしまい、焼けるような砂の熱さに驚いたが、
かといってその場に留まるわけにもいかず急いで波打ち際へと走っていった。そして今に至る。
 「もう〜エリオとキャロったら。だからサンダルを履いていきなさいって言ったのに…」
「いいではないか、あれはあれで楽しそうで」

はしゃぐ子ども達を他所にフェイトとシグナムは少し離れた所から眺めていた。
「ところでシグナムはあの子達と遊んであげないんですか?」
シートに座ったまま首だけシグナムに向けるフェイト。
「よく考えたら私は海ではしゃぐような柄でもあるまい、こうしてのんびりしているほうがお似合いだ」
そう言って冷えたお茶に口をつけるシグナム。帰りはシグナムが運転するためアルコールはご法度だ。
「でも本当にあの子達楽しそうですね」
「ああ…」
二人が目を向けると、エリオとキャロが二人で仲良く遊んでいた。

「キャロやめてよ、冷たいってば!」
「やめないよーだ!」
キャロが海水を手で跳ね上げると小さな波となってエリオに降りかかる。
エリオはそれを顔にかからないようにガードする。
口でこそ文句を言っているがその様子は楽しげでとても微笑ましいものだった。

「よーし、それなら僕だって」
いつまでもやられっぱなしでは不服なのか今度はエリオが海水をかける。
互いの身体が濡らされ、海水が太陽に晒された肌を心地よく冷ましていくがそれでも自然の暑さには叶わず、身体が渇きを訴えた。

「エリオ君、なんだか喉渇かない?」
「そうだね、僕が買ってくるよ」そう言うとエリオは海から上がり近くにある露天を目指していった。

 「さてと、早く帰らないと。キャロを待たせちゃ悪いもんね」
エリオは二人分の飲み物を抱えてキャロのもとへ急ぐ。その時エリオは背後から声をかけられた。

「はーい僕、今一人」 エリオが振り返るとそこには六課のスバルやティアナと同じくらいの年齢の女性が二人並んでいた。一人は腰まで伸びた黒髪が美しいスレンダーな女性。もう一人は肩口で切り揃えた茶髪から印象を受ける女性だった。 「あの、何か僕に御用でしょうか?」
若干警戒しつつも自分が声をかけられた意図を理解できずにエリオは困惑した。
「んん〜、用って言うより一緒に遊ばない?ってお誘いなんだけどな…所謂逆ナンパってやつ」
自分から言葉にすることに抵抗があるのか顔を赤くする。しかしエリオは自分がナンパをされているという事実に彼女達以上に顔を赤くした。
「すみません、家族と来てますから!!」

エリオはそのまま逃走を図ろうとするが腕を取られてしまう。
「まあまあ少しくらい良いじゃない」
「そうだよ堅いこと言いっこなしだよ」
女性の二人組みはエリオを逃がすまいと両サイドから抱き込んだ。その結果柔らかいものがエリオの小さな体に押し付けられ、狼狽してしまう。
「ちょ、苦しいですよ」
エリオは抗議の声を上げるが悲しいかな、それが聞き入れられることはなかった。
「やーん、小っちゃくて可愛い!!」
まるで愛玩動物のようにもみくちゃにされるエリオ。一方的な触れ合いは益々過激になり、気力が限界に達しかけた時思わぬ所から救いの手が差し伸べられた。

「私のエリオ君にベタベタしないでください!!」
そこに現れたのは息を切らせたキャロの姿だった。両手を膝につき、肩で息をする姿が必死にやってきたことを雄弁に物語っていた。
「キャロ…どうしてここに?」
「エリオ君が…いつまで経っても戻ってこないから…探しに来たんだよ…」

キャロは息を整えながら説明すると、すぐにエリオに向き直った。
「エリオ君大丈夫?この人たちに何もされてない?」
キャロはエリオのもとに駆け寄った。キャロの様子を見て女性達は顔を見合わせて苦笑するとエリオを解放した。
「えっ?えっ?」
突然の出来事にエリオは目を白黒させた。件の二人はエリオとキャロに目線を合わせると申し訳なさそうにはにかんだ。

「僕も人が悪いな〜彼女がいるなら言ってくれればいいのに」
「そうだよ。彼女さんもごめんね彼氏君に手を出そうとしちゃって」カラカラと笑う二人に対してキャロは自分の内心を見透かされたのかと一瞬動揺するが、
努めて冷静に答える。「私たち別にそういうんじゃありませんよ」すると二人組のショートカットの方の女性がニヤニヤと笑いながら反撃してきた。
「『私のエリオ君』、かあ….普通は中々言えないわよねえ」指摘されて初めて自分が何を言ったのか気づいたのか、キャロは一気に顔を赤くした。
それに釣られるようにエリオも赤くなっていた。
「じゃあねえ〜二人とも仲良くやるんだよ〜」
言いたいことだけ言って女性達は離れていった。
「それじゃあ戻ろうか、キャロ…」
「うん…」
後にはなんだか気まずい二人だけが残されていた。

「キャロ、さっきのって…」
来た道を戻りながらエリオは先ほどのキャロの発言について質問する。
「ご、ごめんねエリオ君。別に変な意味じゃないから忘れていいよ」
取り繕うように慌ててキャロが答えるが、エリオはそれを拒んだ。

「僕は忘れたくないな。なんだかキャロとの心の距離が近づいたみたいでちょっと嬉しいんだ」
そのままエリオは言葉を続ける。
「だから僕がキャロのものならキャロも僕の物ってことにしてくれないかな?」
「うん!!」
キャロは満面の笑みで答えるとエリオの手を握る。エリオも握り返してそれに応えた。

 一方その頃……エリオとキャロを見守る二つの視線があった。
 「まったくあの二人は…子どもとはいつも私たちの想像以上の速さで成長するものなのだな」
「ええ、本当に。でもあの子達、意味わかってるのかな…?」
苦笑交じりのフェイトにシグナムは余裕で返す。「さあな、でもあの二人のことだ。滅多なことにはなるまいよ」

「そうですね、シグナム」
 帰りの車内、エリオとキャロは遊びつかれたのか互いに重なり合って眠っている。
互いを繋ぎ合わせるようにその手は強く握られていた。
家族としての好きなのか、それ以上の好きなのか、今はまだ答えは出てないがいつか自分達で気づくその日まで二人の微妙な関係は続いていくだろう。

あとがき

てなわけでいかがでしたでしょうか。
私はエリオとキャロの何とも言えない微妙な関係が大好きだったりします。
四期が始まっても相変わらず10歳エリキャロです。初々しくて可愛いし(待て
そしてもうすぐ9月も終わろうと言うのに今更海水浴という季節感がん無視の話。計画性ねえorz

当初はキャロがナンパされる話を予定していたのですが、よく考えたらそれは犯罪だぞと気づいて急遽逆パターンで作ってみました。
エリオをナンパした二人組ですが特にこれといったモデルはいません。
考えなしで作ったわりにやたら動きまくってなんか美味しいポジションに収まったようなそうでないような。
そしてエリオとキャロが予想以上に甘々なことになって私が一番驚いております。どうしてこうなった…

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