このSSはリトルバスターズ美魚シナリオのネタバレを多大に含みます。
まだ未クリアの方はこのまま戻ることをお勧めします。













リトルバスターズSS



愛する人へ

カナカナカナ…
太陽が西に傾き、暑さも柔らぐ頃、僕は西園さんと二人で隣り合って歩いていた。
今日は以前から約束していた西園さんとの書店巡りの日だった。
読書家の西園さんは今日の定期的に本を買い増すのだ。

今、僕の手に半分、西園さんの手に半分その成果が紙袋に収まっている。
文庫からハードカバーまで様々な本があるため、自然その重量は結構なものとなり、僕の指にズシリと食い込んだ。
本の重みを指で感じながら隣を向くと、西園さんは変わらず涼しい表情で歩いた。

「どうかしましたか、直枝さん?」
西園さんが軽やかに問いかける。僕と同じ重さの本を持ってるとは思えない。
「いや、それ重くないのかなって思って…」

そう言い、僕は目線で西園さんが持っている荷物を追う。
そこには紙袋が一つ掲げられていた。

「ええ、重いことは重いですが…」
西園さんは一旦区切ってから言葉を続ける。
「大切な本のためですから…」

そう言うと西園さんは今日加わった新たな蔵書を愛おしそうに抱きしめる。
ああ…西園さんは本当に本が大好きなんだな…っと僕が今更ながらに実感すると共に、それを手伝えたことが嬉しくなり、胸に暖かいものが走っていった。

僕らが海の近くを歩いていると一陣の風が吹き抜けた。浜辺特有の冷たい風は、夏の暑さで熱を持った身体にはちょうど良い心地よさだった。
海が近いこともあってか風とともに潮の香りが目の前を駆け抜けていった。
ふと砂浜に目をやると、既に時間が遅いこともあってか人は一人もおらず、無言で寄せては返す波が寂しそうにあるだけだった。

その隣では西園さんも何か考えるように海を見つめていた。
「西園さん?」
僕は思わず西園さんに声をかける。
その表状はあまりにも儚げで、ほっておいたら消えてしまいそうな危うさをしていた。

「どうかしましたか、直枝さん?」
西園さんが振り向き、返事をする。
「何でもないけど、ぼうっとしてたから疲れてのかなって…」
「ご心配をおかけしました。疲れているとかではないので大丈夫です」
その表情はいつものそれに戻っていた。

「直枝さん…」
僕が安堵に胸を撫で下ろしていると西園さんが何やら遠慮がちに言ってきた。
「もしよろしければ浜辺の近くまで言ってみませんか?」

「うん、いいよ」
西園さんからの思いがけない提案だったが僕は二つ返事でOKした。
せっかくここまで来たのだから浜風に当たるのも悪くない。
それに西園さんとの時間をこのまま終わらせてはあまりにもったいない。

「じゃあ行こうか」
「はい…」
僕は最後の気持ちを隠すようにさりげなく空いた手を西園さんに差し出した。
僕の意図に気づいた西園さんは自分の手を僕の手に軽く乗せる。

僕らの手を中心に体温が上昇するのを感じる。
それを冷ますように風が吹きぬける。
潮風を背にして僕らはその場を動き出した。

僕らは海を一面に見渡せる防波堤までやって来ていた。
「凄い波ですね…」
「そうだね…」
そして目の前で起こる自然の本性に僕は思わず息を飲む。
テトラポッドが山と積まれ、打ち付けられた波が飛散する。
来るものを拒む荒々しさが夏の終わりをが近いことを物語っていた。

「直枝さん…」
僕が海に意識を取られかけていると、隣から西園さんの声が聞こえてきた。
「なに、西園さん?」
僕が尋ねると西園さんは伏目がちに問いかけてきた。

「直枝さんはこの光景に見覚えはありませんか?」
「え……」
僕は予想外の質問に目を丸くする。
僕に聞いてくるという事は二人で見たことがないかということだろう。
僕はそれを思い出すべく記憶を辿る。
不明瞭な記憶で時期は思い出せないが、海に行った記憶はある。
でも何故だろう?一緒に行った人は西園さんではない気がする…
西園さんで間違いはないはずなのに、ピントの合わない眼鏡で遠くを見るようなそんな違和感。

「ごめん、思い出せないや…」
はっきりとしたことは何一つ思い出せず、こんないい加減な返事となってしまった。
「そうですか…実は私も見覚えがあるのですがはっきりとは思い出せなくて…」
そう言う西園さんの声にはどこか落胆の色が見えていた。

「あっ…」
その時、陽射しに当てられたためかそれとも疲れからか、西園さんの身体が僕の方へ傾いた。
「大丈夫、西園さん?」
僕が西園さんの身体を抱きとめると、僕の頭の中に誰かの言葉が聞こえてきた。

「よかったね、美魚。これはあなたが私と向き合ったから手に入れた幸せ。
私はあくまであなたの影だったけど、実際は影のようなあなたが私という陽を持って生きてきた。でもそれももうおしまい。
あなたがもうひとつの自分を…自分の影を受け入れて
影の美鳥を捨てて本物の美鳥を手に入れた…
私はあなたであなたは私。あなたの幸せは私の幸せだから…
だから絶対手放しちゃだめだからね。私はずっと見守ってるね…」

「西園さん、今、何か聞こえなかった?」
僕は声の正体を探るべく西園さんに問いかける。
「はい、確かに聞こえましたがあれはなんだったんでしょうか?」

「でも、なんだか暖かい感じがしたね」
「そうですね…」

そう言うと僕らは寮に向けて歩き出した。
二人手を繋ぎ、長い長い影を描きながら。

私はあなたの中にちゃんといるから…だから3人で歩み続けようね…美魚



あとがき…という名の懺悔



ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさ(ry

当初は海の日に間に合わせるはずがエクスタシーにさえ間に合わず、しまいにはこんなグダグダの訳わからんSSになってすみません。
大学の試験がはしかの影響でめちゃめちゃになったり、私自身も現在風邪を引いてる真っ最中だったりとえらいことになっております。

肝心のSSの方ですが、海=美魚&美鳥という超安直な頚椎反射の下作りました。ちなみに最後の美鳥独白の部分だけ最初に出来たのに、
理樹の視点で書いたもんだから苦労しました。もう少し考えて書け、ということですね。では今回はこの辺で。

 

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