機動六課の新年会

「それじゃあ今日は思い切り騒いだってな、かんぱーい!!」
「「「かんぱーい!!!」」」
はやてが音頭を取ると大部屋のあちこちから乾杯の声とグラスの音が響き渡る。
それを皮切りにある者は浴びるほど酒を呑み、またある者は同僚との会話に花を咲かせていた。その様子にはやては一人満足気に頷いている。

日頃から六課メンバーを集めた宴会を行いたいと考えていたはやてだが任務に忙殺されていたためそれさえ叶わずにいた。
しかし試用期間終了間近のこの時期に至って、新年とJS事件の慰労という最高の大義名分の得てやっと宴会が開催される運びとなった。

「うひゃあああ!!」
皆に酒が行渡って盛り上がった頃、会場の片隅で宴とは不釣合いな嬌声が響いた。
「な、なんや!?」
はやてが慌ててそちらに目をやると、酔ったスバルがティアナの胸を背後から鷲づかみにしていた。

いつもならここでティアナが鉄拳制裁を喰らわせて事態が収まるのだ。はやてもそのパターンを予想して静観を決めこむがそれはあっさり裏切られた。
「ティア〜ティア〜」
「ちょ、あんたやめなさいよ…!!」
ティアナは自分に纏わりつくスバルを引き剥がそうとするが、アルコールのせいか思い通りに身体を動かせず、結果スバルにされるがままになっていた。

「へへ〜到着」
そう言うとスバルはティアナの服の中に手を滑り込ませ、今度は胸を直に揉んできた。
「それは洒落になんないって…ああ……!!」
スバルの暴走は留まる所を知らず、力を加えながら掌や指先でティアナの胸を弄る行為は完全に快楽を呼び起こすためのものとなっていた。
「あっ……!!」
ティアナが上気した顔で甘い吐息を吐き出すと、ここが宴会場ということも忘れてスバルに身を委ねた。もはや自身での制御は不可能であった。
「おおっっ…!!」
二人が突如発生させた桃色空間に周囲が俄かにざわめく。そのほとんどが男性局員だったが一部女性局員が混ざっていたのは見間違いだと思いたい。

「なのはちゃん、何とかしたってえな…」
はやてはこれ以上の傍観は危険と判断し、直属の上司であるなのはにため息を吐きながら仲裁を申し出る。しかしそれは叶わぬ願いであった。
「やめてよ、なのは」
「フェイトちゃーん、そんなこといって本当は嬉しいくせに〜」
頼みの綱である教導官様はただの酔っ払いと化してフェイトに迫っていた。
おそらくなのはに剥かれたのだろう、法規の象徴である執務官の制服が半分以上脱がされて下着姿を披露していた。

「ちょ、なのはちゃんまで何やってるん!?」
はやてが慌てて駆け寄り注視すると、なのはの周りには「名酒大魔王」(アルコール度数40%)と銘打たれた焼酎の大瓶が2.3本転がっていた。

「そらないで、なのはちゃん…」
はやては天を仰ぎながらなのはの隣の空席を見つめる。ここには本来ユーノがゲストとして来るはずだったのだ。
しかし例によって緊急の資料請求によって直前にオジャン。なのはとて子どもではないのだから分かりはするが、頭で理解出来ても感情が割り切れないことはある。
そのような場合誰かが理不尽な犠牲に遭う。今回がまさにそれである。

「へへ〜フェイトちゃんは本当にいい身体をしているの」
だからといって今のセクハラ親父モードもどうかと思うが。かといって自分に処理出来るほど今のなのはは楽ではないしはやても強くはない。
「堪忍な、フェイトちゃん」
はやてはそう呟くとフェイトを人柱として捧げて手近にあった大瓶をラッパ飲みした。
これが新たな惨劇の幕開けになるとも知らずに……

大人たちがとんでもない騒ぎをしている中でのんびりで過ごす二人がいた。
六課の最年少コンビ、エリオとキャロである。
「こっちの料理も凄く美味しいよ、キャロ」
「本当だね、エリオ君」
二人はあくまでマイペースに語らい、料理を食べ、普通にこの場を楽しんでいた。
比較的冷静な側の大人たちも彼らを暖かく見守り、邪魔するような無粋なものはいなかった。
隊長陣やスバルたちとはあまりに対照的な空間が出来上がっていた。

「エリオ君、これ何かな?」
キャロが目の前のひょうたん型の入れ物を指差し聞く。エリオが振ってみると液体の揺れる音がちゃぷちゃぷと聞こえてきた。
「何だろう?」
エリオも思案顔で考えるが答えは出てこない、というよりこんな妙な形状のものを見たことがないのだ。
エリオが答えに窮していると意外なところから助け舟がやって来た。
「これはな甘酒ゆうてな、あたしらの世界の飲み物なんよ。けど安心しい、お酒ゆうたかて子どもでも酔わない安心設計や」
はやてはそう言って二人のコップに入れ物を傾ける。コップが濁った白い液体で満たされていった。
「これ大丈夫なのかな?」
「さあ…?」
見慣れぬ外見にやや引きながらもエリオがぐいっと甘酒を飲み干す。
「あれ、美味しい。キャロも騙されたと思って飲んでみなよ」
名前が冠する通りの甘さと飲みやすさ、そして身体が温まる感じにエリオはすっかり気に入ったようだ。
「本当だ、甘くて美味しい」
キャロもそれに続く。二人の手元には空のコップが仲良く並んでいた。

「そうやろそうやろ?まだまだあるからじゃんじゃんいくで〜」
はやてはいつも以上のハイテンションで子ども二人で飲むには充分すぎる量の甘酒を取り出した。
「「ありがとうございます、はやてさん!!」」
「かまへんかまへん、二人で仲良く楽しみ〜」
はやてはそのまま手をヒラヒラと振って自分の席へ戻っていった。

「エリオ君、もっとどうぞ」
キャロがエリオのコップに甘酒を注ぐ。
「キャロのも空だから今度は僕から」
「ありがとう、エリオ君」
エリオが返杯する。
並んで甘酒を飲む姿は色んな意味で出来上がっており、当てられる者が続出したとかしないとか。

「よいしょっと…」
キャロが突然立ち上がりエリオに向き直るが、目の焦点が定まっておらず何処かいつもとは違う感じがした。
「キャロ、どうしたの…わぷっ」
しかし、最後まで言う前にキャロがエリオにしな垂れかかりそれを邪魔する。
両手を首に回して潤んだ瞳で見つめる。熱くて甘い吐息がぶつかり、瞳と唇がすぐ側まで接近した。
エリオがこれに耐え切れるわけもなく、赤面してキャロを引き離そうとした。
「キャ、キャロ!!」
キャロのエリオに対するスキンシップは以前からあったがここまで積極的なのは初めてである。
いくらお酒とはいえ、甘酒でここまで酔うだろうか?
エリオが怪訝に思いながらテーブルに目をやると、そこには先ほどまでとは違う透明な液体が半分ほど入っていた。

「これって…」
エリオがコップを手に取り匂いを嗅ぐ。鼻を刺すようなきついアルコールの臭いに思わず顔をしかめる。
中に入っていたのは自分達が飲んでいたものとは違うお酒であった。
「エリオくーん…」

キャロのスキンシップは益々過剰になり、エリオはあたふたするばかりだ。
「堪忍な〜。それ、甘酒やのうて甘いお酒やったわ。間違えて入れてもうた、あはは〜」
何が楽しいのか、ただの酔っ払いになったはやてが笑いながら自身の失敗を告白する。
「主、こんなところにいらしたのですか、早く戻りますよ」
「はーい。ほなな、エリオ、キャロ…って聞こえてへんか」
シグナムに連れられてはやてが自分の席へ戻っていった。

だがエリオの脳内はそれどころではなかった。
今現在もキャロが絶賛誘惑中であり、しかもアルコールで上昇した体温と鼓動、その他諸々が全力でエリオの理性を揺さぶっているのだ。
「キャロは妹、キャロは妹、キャロは妹……」
エリオはとにかく必死になって理性を保とうとするがそれも限界だった。

「こら、お前らいい加減にしろ!!」
理性の防波堤が決壊しかけたその時、エリオの前に一人の救世主が舞い降りた。
相変わらずエリオにべったりのキャロの後頭部をピコッと軽い衝撃が襲う。
二人の前にヴィータが仁王立ちで身構える。手に持っているのがグラーフアイゼンではなくピコピコハンマーなのは宴会故か。
「痛いですよ、ヴィータさん…」
キャロが手で叩かれた部分を摩りながら抗議する。目尻には薄っすら涙が浮かんでいた。
「お前が悪酔いするからだろうが」
「良かった…」
ぴしゃりと言い放つヴィータを見てエリオはそっと胸を撫で下ろす。
これでやっと平穏が訪れる…わけにはいかなかった。

「エリオはあたしのだかんな!!」
そう宣言すると今度はヴィータがエリオの膝に座り込む。
「え、え、えーー!!」
エリオが慌てながらヴィータの顔を覗き込む。頬は朱が差しており、目も座っている。紛うことなき酔っ払いだった。
「ヴィータさん、酔ってるんじゃないですか?普段はこんなことしないじゃないですか!!」
「酔ってねえのです、あたしは大人だ。つーかエリオにはいつもこんなことしてるぞ」

「なっ…!!」
突如飛び出した爆弾発言だが、見に覚えのないエリオにはどうすることも出来ない。
「エリオ君!!それってどういうこと!!」
すかさず反応してくるキャロ。両手を握り締めてエリオに接近するその表情は真剣そのものだ。

「いいぞ、もっとやれーー!!」
どこからかヴァイスが無責任な野次を飛ばす。
エリオは野次を無視してこの場を収めてくれそうな人を探す。
スバルはティアナに投げ飛ばされたのか床とキスをして犬神家のような体勢で眠っていた。フェイトはなのはに陥落されて色々と見せられない状態になっている。
「ほーらグリフィス、こっちのお酒も美味しいよ」
「シャーリーさん、何してるんですか!ていうかグリフィスさんもヘラヘラしないでください!!」
「二人とも落ち着いて…」
そして六課の数少ない男性であるグリフィスはシャーリーとルキノに挟まれて修羅場を形成していた。


はは、馬鹿だなあ…これが現実なわけないじゃないか。夢だよ、夢に決まってる…」
あまりの酷さに自らの処理容量の限界を超えたエリオはこれ以上考えるのを止めて思考を投げ出した。
後にはキャロとヴィータの自分を呼ぶ声だけが頭に響き渡っていた。

「あれ…ここ、僕の部屋だ」
翌朝エリオは自室のベッドで目を覚ました。
昨日意識を失ってからの記憶はないが部屋にいるということは誰かが運んでくれたということだろう。
エリオは親切な誰かへのお礼を考えながら体を起こす。すると毛布の中で何かにぶつかった。
「えっ…?」
エリオが恐る恐る毛布をめくると、中にキャロがあられもない姿でもぐりこんでいた。
上半身は覆うものが何もなく、僅かに下半身に下着を身に着けているだけ。
そのため、成長過程にあるがフラットなキャロの肢体が丸見え状態だった。

「キャ、キャロ、何やってんのーーー!!」
エリオは大声を上げて後さると、またもやゴツンという衝撃を受ける。
エリオが嫌な予感とともに振り返ると、同じくあられもない格好のヴィータが毛布に包まっていた。
しかも解かれた真紅の長髪が汗ばんだ身体に張り付いて年不相応の色気を醸し出していた。

「ん、ん〜?」
ヴィータが目を擦りながら身体を起こす。
エリオは死を覚悟して反応を待つが、ヴィータの反応はまったく想像だにしないものだった。
「エ、エリオ…」
ヴィータが顔を赤くして口を開くとそのまま言葉を続ける。
「お前があんな男らしいやつだなんて思わなかったよ、キャロに負けるつもりはないからよろしくな」
まだ何かを呟いていたがあまりに小さい声だったためエリオには聞き取れなかった。
「それってどういう…?」
エリオが訳もわからず狼狽していると今度はキャロが起きだしてきた。
寝ぼけ眼のまま笑顔を浮かべるとエリオに向き直り挨拶をする。
「今年もよろしくね、エリオ君」

「は、はは……」
エリオは暫く硬直し、事態を把握するだけで手一杯だったと言う。そして自分の置かれた状況を理解した時、少年は本気で頭を抱えたとか。

おまけ1

翌朝、なのはが目を覚ますと頭をキリキリ捻られるような強烈な頭痛に襲われていた。
「う〜、頭が痛いの…」
「自業自得だよ、なのは。反省しなね。」
励ますフェイトの声やや冷たいものになっている。昨晩されたことを考えれば当然だが。
それでも最低限のことはしてくれるのはフェイトの優しさだろう。
フェイトは制服に袖を通すと、なのはの手近なテーブルにコップと頭痛薬だけおいて仕事へ向かう。
「それじゃあ私は仕事があるから。ちゃんと薬飲むんだよ」
開けられたドアから入り込んだ外気がなのはの頭をさらに痛めつけていった。
「くすん、フェイトちゃんが冷たいの…」
外の寒さが沁みる冬の日の出来事だった。

おまけ2
「ねえティア、なんか首が痛い…というか昨日の途中から記憶がないんだけど何か知らない?」
痛む首筋を押さえながら、デバイスの調整に勤しむパートナーに聞いてみる。
「うっさい、自分で考えなさいよ」
ティアナにとっても昨日の宴会は悪夢以外の何物でもなく、無意識にきつめのな言葉を使ってしまう。
「ティア〜そんなこと言わないでよ〜」
「何すんのよ!!」
スバルが背後から抱きつく。スバルにとってはいつものスキンシップのつもりだがティアナには昨日のアレを思い出させる引き金となった。
ティアナが裏拳を打ち上げるときれいにスバルの顎にクリーンヒットし、そのまま倒れこんでしまった。
「ちょっとスバル!?しっかりしなさいよ、スバルってば!!」

機動六課は概ねいつも通りのようです。
今度こそ終われ

あとがき
機動六課の宴会模様+エリキャロのほのぼのを書こうとしたら何故かこんなことに…
個人的には天然ほのぼのカップルなエリキャロと突っ走った三人を書けたので満足です。
なんかなのはさんがかなりたちの悪い酔っ払いになってますが別に嫌いじゃないですよ?
 

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