リトルバスターズ佳奈多SS 

印〜しるし〜

このSSはリトルバスターズのオーラスEND後のネタバレを多大に含んでいるため、まだクリアしてない方やネタバレを嫌う方はこのまま戻ることを
お勧めします。



















































棗恭介率いる「リトルバスターズ」なる一団が自分たちだけの修学旅行を敢行して数日が経った。
それから少しして、あの世界のことを覚えていた直枝は私に思いをぶつけてきた。
最初の頃はひょろっとした童顔のお人好し程度にしか思わなかったのだが、以外なことにあの世界の直枝は誰よりも危なっかしい所はあるが頼りになり、
私たち姉妹だけではなく他の皆まで救ってしまった。
私自身、いつの間にかそんな直枝に引かれていたのだろう。意外なほどに迷いなくそれを受け入れることが出来た。

こうして恋人同士になった私たちだが、一つだけ大きな問題があったのだ。
「それじゃあ二木さん、悪いけどこれ、E組の直枝君に届けてくれる?」
クラス委員長が書類を持って私の席へ近づいてくる。
「ええ、分かったわ」
顔を上げてそれを受け取る。これが私こと、二木佳奈多のクラスでの顔だった。

「はあ…なんで直枝と違うクラスなんだろう、私…」
しかし、廊下に出て見知った顔がなくなった頃に私の不満はため息とともに流れ出た。
クラスが違う。一見すると何でもないように見えるが、活動時間の8割を学園で過ごす私たち学生にとって、これは致命傷とも言えることなのだ。

しかも直枝は直枝で、唯でさえ合える時間が短いのに、休み時間などはミッションと称して校内で暴れたり、筋肉で遊んだりしてるのだ。
(大体直枝も直枝よ、休み時間ぐらい彼女のもとへ来たって罰は当たらないじゃない…)
そこまで考えて、私は体温が上昇するのを感じ取った。
試しに頬に触れてみる…僅かにだが熱を帯びていた。鏡で見れば確実に赤くなっているだろう。

(って何女々しいこと考えてるのよ私は!!ええーい、全部直枝のせいよ、きっとそうよ。今日こそ一発ガツンと言ってやるんだから!!)
脳内で責任転嫁を終えた私は気持ち早歩きで直枝の教室へと向かう。ついこないだまで風紀委員長だった身だ。おいそれと校則は違えない。

「理樹くん、かたじけのうござる!!」
「くそう、無念なり〜」

私がE組に顔を出すとやはりと言うべきか、彼らは奇妙な遊びに興じていた。
…まあいい、これくらいは想像の範疇だ。それよりも早く用事を済ませて直枝を確保しなければ。
思わず頭を抑えたくなるが、それを堪えて直枝へ向き直る。するとそこでは予想外の出来事が展開されていた。

「理樹く〜ん」
「は、葉留佳さん!?」
妹の葉留佳が直枝に抱きついているのだ。直枝は葉留佳に密着され、女の子の香りや感触からか、熱した鉄のように顔を紅潮させている。
多分、今の直枝の頭にやかんを置けば簡単に湯が沸くだろう。
などと、冷静に観察している場合ではない。彼女としてこれ以上妹の狼藉を許すわけにはいかないので即刻止めに入る。

「…葉留佳、あなた何してるの?」
感情は表に出さずにあくまで冷静に、しかしよく通る声で問いかける。
「お、お姉ちゃん!?」
葉留佳もそれまでの騒がしさが嘘のようにおとなしくなる。
伊達に生まれた時から姉妹をやってるわけではない。私はこの状態が一番恐ろしいということを身をもって理解しているはずである。
…というか私と直枝の関係も知ってるはずなんだけどね。

「いや〜、実はさっきの勝負の罰ゲームでして。一位の人は最下位の人を自由に出来るっていう…あれ、聞いてます?」
だが、私の耳には葉留佳の言葉は半分も届いていなかった。多分八つ当たりもあったのだろう。
私たちの関係を知ってる葉留佳が直枝にちょっかいを出していることが羨ましかったのだ。
しかも私がこんな思いまでしてるのに…
そう思った次の瞬間、私は葉留佳の首根っこを掴んでいた。

「ちょっとこの娘を借りますね」
そういうと近くで事態を静観していた来々谷さんが自然な仕草で手を振り応える。
その姿は何処か、美術館の絵画を思い返させる美しさに溢れていた。
どこまでも洒落たポーズの似合う人だ。それを羨ましく思いながら私は葉留佳を廊下へ連れて行く。
葉留佳は引きずられながら「どうかご慈悲を〜」などと言っている。傍からは死刑囚とその執行人の如く映ったかもしれない。
そんなことを考えながら人の彼氏にちょっかいを出す不届きな妹と鈍感な彼氏へのおしおきの内容を吟味する。長い一日になりそうだ…

「はあ…結局今日も解決せず…か」
放課後に寮の自室で一人ごちる。
葉留佳にはきつい灸をすえてやったが、肝心の直枝に分からせなければ何も解決はしないのだから。
そして所在なさげに視線を彷徨わせていると一冊の本が目に飛び込んできた。
「こんなものあったかしら…?」
不思議に思いながらも手にとって見る。

それは恋愛小説だった。手のひらに収まる大きさで茶色いブックカバーのかかったどこにでもあるごくごく普通の恋愛小説。
「そういえば西園さんに借りたんだっけ?」
あの一件から親しくなった読書好きの友人を思い浮かべながら本をめくっていく。
仮にも恋愛小説なら何か参考になることが書いてあるかもしれない。
藁をも縋る思いで読み進めていくと、まさにドンピシャで役に立つ描写があった。

物語の二人は恋人同士だが、片方がそっけない上にやたら異性にモテル。それにヤキモキする主人公。
本当に計ったような展開だったが、私はそれを熟読し懸命に頭に叩き込む。件のカップルが両方男性だったことには触れないでおく。
今に見てなさい直枝。そう息巻いてメールで直枝を呼び出す。これ以上の猶予はいらないのだ。

コンコン…部屋のドアがノックされる。直枝が来たようだ。
「いらっしゃい、どうぞ入って」
扉を開けて直枝を招き入れる。

「どうしたの佳奈多さん?こんな時間に呼び出して?」
直枝が適当に腰を下ろしながら聞いてくる。
確かに、遅くはないが夕食も終えて普通なら自室からは出歩かない時間だ。
けれども私のとってはそうしてでも解決したい問題なのだ。

「ねえ、直枝。いまからいくつか質問に答えてもらえないかしら?」
「僕に答えられることなら構わないけど…」
私の突拍子のない発言に多少戸惑いながら返す直枝。
「じゃあいくわよ」
内心逸る気持ちを抑えて質問を始める。

「まず一つ目。直枝が今、付き合ってるのは誰?」
「佳奈多さんだよ」
直枝は何を当然のことをといった風に返す。私も余裕でいる。ここで躓くわけがない。
「じゃあ二つ目、直枝が好きなのは誰?」
「えええ!!」
直枝が顔を赤くする。この問いには若干照れがあるらしい。
その照れた表情を不覚にも可愛いと思ってしまった私はもう駄目かもしれない。
「いいから早く」
そんな直枝を見て答えを急かす。恥ずかしいのは聞いてる私だって同じだ。

「……佳奈多さん」
若干間を溜めて答える。やばい、可愛すぎる。今なら来々谷さんや西園さんの気持ちが分かるかもしれない。
私は直枝を押し倒したい衝動を抑えて最後の質問を切り出す。
「それじゃあ最後の質問、直枝が今日親しくしていたのは誰?」

この問いの意味を理解したのか、直枝は申し訳なさそうな顔をする。
「…ひょっとして今日のこと怒ってる?」
「今日だけじゃないわ、昨日も一昨日も…私だって嫉妬くらいするんだから…」
そういって直枝を組敷く。私は今きっとかなりいじわるな顔をしているに違いない。

「今からあなたが誰のものか教えてあげる…」
私は口を閉じ、頭を下ろしていく。
直枝も覚悟を決めたのか、目を閉じ全身を強張らせる。
けれど、私がキスをしたのは唇ではなくその下。
首筋に口付けをし、そのまま動かないでいる。
そしてそのまま首筋を吸い上げる。
音こそ上がらないものの、上下に組み伏した男女がキスをするその光景は淫靡以外の何物でもない。

永遠とも思える時間を終え、私は直枝の首から唇を放す。
そこにはくっきりと私の唇の跡、所謂キスマークが出来上がっていた。
「か、か、か、佳奈多さん!?」
自分が何をされたのか理解した直枝が首筋を手で押さえて声を上げる。
目尻にはうっすら涙が浮かんでおり、その顔は首から上がありえないほどに紅潮していた。
でもそれは私も同じこと。なので誰かに「これは合わせ鏡です」と言われても、今なら信じてしまうだろう。
それくらい私たちは顔を赤くしていた。

それから先に復活を果たした私はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「これは印よ。私たちの関係を、貴方の立場を、そして…あなたが誰のものかを示すね…」
私が浮かべて不敵な笑みに言葉の真意を汲んだ直枝が一歩後ずさる。
でも、もう遅い。
「夜はまだ始まったばかりだし、今日はこれからじっくり直枝の身体に私を刻んであげるわ……」
今まで私を寂しがらせた罰と報い、そして私の愛をその身体でしっかり受け止めてもらうんだから。
覚悟しなさい、直枝理樹

あとがき

オーラスEND後に理樹と佳奈多が付き合う日常を書いてみようと思ったのですが、かなり苦労しました。

まず佳奈多がキャラ違いすぎてお前誰だよ?って感じだし理樹も鈍感すぎかなって感じです反省点が多いです。
でも男女の付き合いを始めて乙女チックになる佳奈多が書けて満足です。

今回初めて、ヒロイン視点の物語を書いてみたのですが、勉強すべきことが多いです。

では、今回はこの辺で失礼します。

 

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