リトルバスターズ SS


このSSはリトルバスターズノーマルEND後のネタバレを含んでいます。
本編未クリアの方やネタバレを嫌う方はこのまま戻ることをお勧めします。










七夕の空に願うこと




カタカタカタ……
キーボードを叩く無機質な音がアパートの部屋にこだまする。
僕が夕食後に大学のレポートに取り掛かっていると暇を持て余した鈴が背中に引っ付いてきた。

「理樹、遊んでくれ」
「ちょ、鈴」
鈴が勢いを付けて寄りかかったため、全体重+aが僕の体に襲い掛かる。

「うわっ!!」
そしてそれを支えきれなかった僕は見事に体勢を崩しノートパソコンと対面した。
これが女の子ならロマンスの一つでも始まるのだろうか?
僕はそんなことを考えながら身体を起こすことにした。

「いきなり何するのさ」
僕は不平の言葉を述べながらキーボードのバックスペースキーを押していく。
先ほどの鈴の強襲により、パソコンのテキスト画面には意味不明の文字列が出来上がっていた。

「いや、退屈だったから」
鈴は腕を組みながらそれがどうしたと言わんばかりにふんぞり返る。

「はあ……」
棗鈴という女性を象徴するふてぶてしさに僕は長いため息をついた。

「さっきまで野球を見てたじゃないか」
僕たちは家で手持ち無沙汰になるとよくTVの野球中継を見る。休日にはたまにだがキャッチボールもする。
昔の思い出に縋る訳ではないが、言葉がなくとも互いを気遣い、通じ合えるそれが僕らのコミュニケーションとして定着した。
それだけである。

「あれのことか?」
鈴が顎で示す先には野球の試合が映されていたが、散々なものであった。
それまで好投していた先発が突如交代したかと思えば中継ぎが乱調、一つのアウトも取れずに降板。
その後も後続が悉く打たれ、気づけばその回だけで10点以上取られていた。観客席からは怒号とメガホンが飛び交っている。
それを静止するウグイス嬢のアナウンスもどこか呆れ気味だ。

「…逆に面白いんじゃない?」
僕は鈴を宥めるために慎重に言葉を選ぶ。鈴は恭介の影響かこういう面白くない展開が大嫌いなのだ。

「んなわけあるかっ!!」
大きく目を見開いた鈴が足を振り上げる。
TVの向こうではブーイングが、僕の部屋では鈴のハイキックが飛び交っていた。

「うわっ!…」
その言葉を最後に僕は意識を手放す。
今度は早い目覚めだといいな…

「すまん、理樹」
「鈴もその癖はいい加減直した方がいいよ?」

僕は鈴が持ってきた濡れタオルを患部に当てながら注意する。
実際、鈴の手癖(この場合足癖か?)の悪さはあの時から変わっておらず、このままでは将来的によろしくない。
いくら僕が鈴と付き合いが長く、慣れているとはいえ、それとこれとは別問題だ。


「でも…」
僕は言葉を区切り真っ直ぐに鈴を見据える。
「自分からこういうことを出来るようになっただけ成長したと思うよ?」


「お前は何でそんな上から目線なんだ!!」
鈴が顔を真っ赤にして抗議をしてくる。さっきのことがあったので手は出さないが、抵抗は相変わらずだ。


鈴のこういった拗ねたような反抗は昔からなので僕はそのままにしてTVに視線を向けた。
すると、ちょうどイニング間のインターバルなのか画面が球場の外に切り替わっていた。
打ち上げ花火が満点の星空を彩る。試合もいよいよ終盤らしい。

「今日は七夕ですしねえ。子供たちに夢を与える試合であって欲しいですね」
その解説者の言葉に僕は今日が七夕であることを思い出した。
よく見ると球場の周辺には笹がいくつも用意されており、願いを込めた短冊が結ばれていた。

想いの数だけ並ぶ短冊を見て僕の胸がチクリと痛んだ。
この中の全ての願いが叶うわけではないだろう。叶うものがあれば叶わないものもある。
僕の願いは後者だ。

僕が最も叶えたい願いは永遠に叶わない。
織姫と彦星の願いは1年に1度叶えられる。
僕の大切な人は永遠の空の住人となった。
織姫と彦星は天の川を隔てて暮らしている。
僕と大切な人たちは二度と会えない。
織姫と彦星は一年に一度邂逅が許される。

僕らと彼らは何が違うのだろうか?
「何を考えてるんだ僕は…」
僕は珍しく自分の頭に去来した暗い考えに嫌悪する。

野球というバスターズの思い出と七夕がそうさせたのだろうか?
普段の僕なら絶対ありえない。
僕はもう過去を振り返らない、強く生きると決めたのだから。

だからせめて現実的な願いを唱えよう。
これ以上大切な人が傷つかぬよう、悲しまぬよう。

僕はいつの間にか夢に落ちていた鈴の髪を撫でながら願いを呟く。
僕の願いは七夕の空に吸い込まれていった。



<あとがき>

七夕をテーマにシリアスを目指してみたのですがいかがでしょうか?
当初は佐々美も加えようと思ったのですが収拾が付かなくなるので変更。
自分の未熟さを思い知らされました。


以上、エクスタシーにオギオギしているタックスでした。

 

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